私は、周りの友人が出産したことで驚いた出来事があります。
多くの母になった女性がこう口をそろえたからです。
「子育てがこんなに大変だとは思わなかった」
私は戸惑いました。
「何を言っているの? 子育てが地獄のように大変な日々であることなんて、そんなのはわかりきったことじゃないの」と。
しかし、人生経験を重ねる中で「子育ての大変さを知らないまま大人になる人がいる理由」も理解できるようになりました。裏返していうと、「子どものいない自分がなぜ子育ての大変さを知っているか」という理由が。
その理由。
それは、自分の親の「子どもを産み育てることが辛くて仕方がない姿」を目の当たりにして育ったからです。
つまり、私の親は平たくいうと毒親であり、「親になることが向いていないタイプの人間」でありました。
父親も、母親も、両方。

2016年に出版されて世界10数カ国で翻訳されている母親になって後悔してる。
「今の知識と経験を持って過去に戻れるとしたら、あなたは母になるか」の質問に「ノー」と答えた23人の女性にインタビューした本です。
この本を、私は娘の視点で読みました。
子どもたちは、自分が望まれない存在だと察しているはずです。
母親になって後悔してる p235
自分はここにいるべきではない、生きていないほうがよかった、その方がママの気分がよくなるのだと。
上の言葉は、私も共感するところです。
「子どもは小さいんだから、よくわからないわよ」
そんな風に言う親御さんがいらっしゃいますが、私は違う意見です。多くの子どもは、鋭く親の気持ちを感じとっています。
私も、お母さんが自分のことを邪魔に感じていることをわかっていました。
たまに学校行事や友人や親せきの家に泊まりに行き、たまたま父も出張中などで母が家に一人になることがありました、そういう時に帰宅した後、母はこういったものです。
「ええ!?もう帰って来たの!?あと2~3泊してくれればいいのに。あー、一人でいるの、本当に快適だった。一人分の家事だけしてればいいって、なんて楽なんだろう」
私は、母から「Nozomiがいなくてさみしかったよ」「Nozomiの顔が見たかったの」「Nozomiと一緒にいたいよ」と言われた記憶はありません。
なぜなら、母は一人でいることが好きな人だからです。
私を含め、誰かと一緒にいることは好きではないのです。
(だから、私は今も「一人でいるのが好き」という人とあまり親しくならないように気を付けています。そういう人のそばにいると、母と一緒にいた時の空気感を思い出して寂しくなるからです)

母は何度も口にしていました。
「結婚したくなかった」
「女の人生なんて損しかない」
「みんなやりたいことやってるのに、好きなことやってるのに、お母さんだけ好きなことできない。お母さんだけ我慢しなきゃならない。お母さんはずっと我慢ばっかり」
妻であり母親であることは、私の母にとって苦行のようでした。
母は毎日イライラしていました。
とても辛そうでした。

この本に書かれている母親たちの言葉は、私にとって答え合わせのようなものでした。
「ああ、お母さんも、こんなことを考えていたのだろうなあ」と。
この社会では、「子どもをいつ産むの?」という質問が常に待ち構えているので、(母になれば)不快な質問責めから解放されることができます。
母親になって後悔してる p49
これ以外の項目をクリアしていなくても構いません。既婚子有りという属性を獲得すればいいのです。
ティルザ 2人の子どもの母。1人は30~39歳、もう1人は35~39歳。祖母
「私は悪い母親なの。母親になりたくなかったの。興味がないし、つまらないし、自分の人生にひびが入ったし、うっとうしいの」。
これが本音です。
そして、時計の針を戻すことができないのも事実です。子どもたちには話していませんが、絶対察しているはず。
母親になって後悔してる p242
私が今望むことは、母のような人が無理に子どもを産まなくていい社会になることです。
親に向かないとなんとなく気づいている人が周りからの同調圧力によって無理やり親になることを選択させられ、後悔する人生を歩まないような社会になってほしいと思います。
私が20代の頃に年長の人からかけてもらいたかった言葉があります。
「産まなくてもいいんだよ、そういう選択もあるよ」
この言葉を、抵抗なく言える社会になってほしいと心から思います。

スージー 15~19歳の2人の子どもの母
今週、娘に「時間を戻せるとしたら、それでも子どもを産む?」と聞かれたんです。
いいえ、と答えました。
〔……〕いいえと言ってしまいました……その夜は(母であることのストレスが強すぎて)眠れませんでした。
――大人になった娘さんたちに、「子どもが欲しくない」と言われたら、どうしますか?
子どもを持つことは必須ではないと伝えます。
母親になって後悔してる p244
親になってしまって後悔しない社会になってほしいと思います。
親であることを選択しなくても尊重される社会になってほしいです。
そうすれば、私の母も幸せに生きられたと思います。
母のような女性が無理に出産しなくて良い社会を、私は望みます。
子どもを作らないことで幸せに生きられる人も、世の中にはいるのです。
私はそのことを知っています。
なぜなら、母の姿を見てきたからです。
母のような人も幸せになれる社会を、私は望みます。
それが「どんな人も生きやすくなる社会」の実現の第一歩だから。
著者のドーナトさんはインタビューで以下のように発言しています。
「社会から、あるべき姿を押しつけられ、苦しんでいる人は多く、世界的な課題。多様な選択肢や生き方を認め合える社会になるべきだ」
「欲しくないなら産まなくてもいいよ」
「子どもを持たない人生だって素敵だよ」
「親にならなくても、あなたには価値があるよ」
こう抵抗なく言える世の中になれば、「あるべき姿を押しつけられ苦しんでいる人」が少なくなるでしょう。多様な選択肢や生き方を認め得る社会だからです。
そんな社会が来たらいいな。
私はそう思います。
そして、確実に、そういう社会に近づいているとも感じています。
ここ数十年の間に、母であることと、そこからわきあがる感情についての発信の仕方が変わってきた。かつては、[良い母親」像が障壁となって、女性が子育ての難しさを認めることを妨げ、多くの人が本心を隠していたが、ここ数十年でその壁がゆっくりと壊されつつある。
そして、以前よりも多くの母が、「いつでも穏やかで機嫌のよいお母さんであること」を期待されても人として無理だと主張し、本当は感じているあらゆる気持ち――失望、イラつき、欲求不満、だるさ、矛盾など――を表に出すようになってきている。
これらの変化は、社会で幅広い転換が起きている結果でもある。
母親になって後悔してる p220~221
現在、ますます多くの社会集団が、声なき声をあげ、自分たちの立場と権利を主張しようとする。それにより、言っていいことと言えないことの基準が変わったのは確かである。
そのためにも、この本のように母親である女性が率直に辛さや負担感、それこそ「産むんじゃなかった」「母親になって後悔している」「自分に親業は向いていなかった」と表明することは好ましい現象だと考えています。

もちろん、それを当事者(子ども)へストレートにぶつけるのは不適切なケースもあるでしょう。一方で、仲間同士(ママ友、パパ友)でそのような正直な感情のシェアができるならば望ましいのではないでしょうか。ピアサポートです。
率直な意見を「親失格だ」とつぶしてしまうのではなく、「そういう場合もある」と冷静に受け止める柔軟性ある社会になってほしいと願います。「ママだって人間」だし、「パパだって人間」です。

等身大に悩む親の姿を見ることで、子どもたち若者たちは「自分は本当に子どものいる人生を望んでいるのかどうか、自分に子育てをする覚悟があるのかどうか」を自分事として考えることができます。親であることの辛さや苦しみをタブーとすることなくシェアすることは大切です。

声を殺しては、いけないと思います。
これからを生きる人たちに、よりよい選択をしてもらうためにも。
私も若い世代に「子どもがいない人生で後悔していないよ」と伝えていきます。
2023年 夏至の日に
