ニューヨーク大学スターン経営大学院、MBAコースでブランド戦略とデジタルマーケティングを教える教授であり起業家でもあるスコット・ギャロウェイ。
彼は、自分のビジネスのためやマーケティングを大学で教えるために、多くの企業を研究をしています。そうすると、当然様々な企業の経営者や幹部のスタンスや人柄を知る機会も出てきます。
しかし、ギャロウェイは直接本人に会わないようにしているそうです。
なぜなら、「好きになってしまう」から。

四騎士+Xの次なる支配戦略(Amazon)
私はテック企業の幹部について記事を書くことが多いが、その当事者に会うのはほとんど断っている。(中略)
成功した企業の上級幹部たちはとても頭がよくて、興味深い仕事に関わり、内部情報に通じている。人づきあいの上手さで、その地位についている部分もある。
そういう人に会えば、好きになる可能性が高い。だから私は会わないようにしている。
GAFA next stage ガーファ・ネクストステージ:四騎士+Xの次なる支配戦略 p260
会ったら好きになってしまう。
少し話しただけで、相手に魅了されてしまう。
そんなコミュ力お化け、人間力の塊。
上のくだりを読んで、私は犬養毅を思い出しました。
犬養毅、第29代・内閣総理大臣。

政治の道を退いて、田舎でのんびり晴耕雨読の生活をしようとしても、周りがそれを許さずに選挙にかついでしまう。その結果、総理大臣にまでなってしまった人。そして、五・一五事件――。
変な言い方ですが、犬養毅の死にっぷりは実に見事です。
「胆力」という言葉がありますが、犬養毅のためにあるような言葉と言えましょう。
犬養は自分を殺しに自宅へ来た海軍将校らを、和室へと招きます。
『まあ、せくな』ゆっくりと、祖父は議会の野次を押さえる時と同じしぐさで手を振った。『撃つのはいつでも撃てる。あっちへ行って話を聞こう。ついて来い』 そして、日本間に誘導して、床の間を背に中央の卓を前に座り、煙草盆をひきよせると一本を手に取り、ぐるりと拳銃を擬して立つ若者にもすすめてから、『まあ靴でもぬげや、話を聞こう』
花々と星々と
すごいですよね、この落ち着き。
血にはやり殺気を隠そうともしない若い軍人を前にして、この波ひとつない湖面のような対応。(ちなみに犬養毅は私の守護神、日干・壬です。壬の素晴らしい長所を見事に体現している人だと思います)
「何か言い残すことはないか」と詰められ、犬養が口を開こうとした瞬間「問答無用!」と撃たれます。話せと言われたから話そうとしたのに……。理不尽ですね。
ろくに抵抗もできない丸腰の老人が最後の言葉を話そうとするのくらい、聞いても良さそうなものです。なのに、実行犯の将校たちは焦っているかのように犬養に銃撃を加えていきました。
自分に対して敵意むきだしの人間に対して「話を聞こう」と胸襟を開いた犬養との「人間力」の差、格の違いは歴然としていますね。
だからこそ、余計な会話はせずに、口を封じてしまいたかったのではないでしょうか。言葉を聞いてしまったら、撃てなくなってしまう怖れすら感じたのかもしれません。
ギャロウェイをして「会ったら好きになってしまう。だから会わない」といわしめるテック企業幹部のコミュ力+人間力。それと同じように人を魅了する胆力が、犬養毅には備わっていたのではないでしょうか。
「人間力」のある人は、強い。
にじみ出るオーラで、圧倒されてしまう。
テック企業の幹部にしろ、犬養毅にしろ。
そんな人間力がどうやって培われるか、胆力がどうやって培われるか。
それは「いかに修羅場をくぐって来たか」の場数でありましょう。どれだけ人生においてリスクを背負ってきたか、安心安全を選ばずに苦難も厭わず道を歩んできたかでありましょう。
私がビジネスに真剣に取り組むビジネスパーソンを尊敬するのも、この理由によります。リスクをちゃんととって、戦う。その姿勢は美しいものです。
そして、危険にさらされても生き残ってきた軌跡によって、「自分は宇宙に生かされている」と気づく瞬間が訪れます。安心安穏で予定通りの人生を送っていては、そんな実感など持てません。
人間力を磨く。
そのためには、手放しが不可欠です。
手に入れたものに執着せず、次のステップに進む。その勇気がなければ、人も組織も腐敗していきます。
仲良しな人、気心知れた人と話し合うのは簡単です。
しかし、犬養毅のように自分を殺しに来た人に「話を聞こう」と招き入れるのは至難の業。
自分と対立している人とすら話を聞こうとするコミュニケーション能力。素晴らしいですね。私たちが先人に学ぶべきことかもしれません。
やっぱり、大事なのはコミュニケーション能力。
人間力をつけるために、最も基礎になることですね。
コミュ力しか勝たん!