直接人に物を言えない優秀な若者たち
ある経営コンサルタントのお客様――仮にOさんとします――から、こんな話を聞きました。

この前、新入社員研修の講師として
某企業に招かれたんです。
そこは社員数も多くて有名な企業。入社してくる新入社員も高学歴の優秀な人ばかり。なので、Oさんも頭脳明晰な若者たちに応えられるように質疑応答のシミュレーションもみっちり行って研修の場に臨みました。

以上となります。
これまでの内容でわかりにくかったところ、質問などがありましたら挙手をお願いします

…………
…………
…………

質問はなさそうですね
チャットのほうでも受け付けておりますので、もし後から疑問が浮かんだりした人は、チャットにて質問してください。
では、これで今日のプログラムは終了いたします
お疲れ様でした!

ありがとうございました!
(拍手)
まったく質問がなく少し拍子抜けしたOさん。
しかし、現場を去ってカフェで一息ついていると……見ていたタブレットが反応しはじめたのです!

やってくるやってくる。
次から次へと質問が。
しかも、画面を埋め尽くすレベルの長文が!!

新人が発揮するべきリーダーシップの形についてのお話ですが――

ワークライフバランスを考えるうえで、バリューを出しながらキャリアパスを形成するために――

自分をアピールすることとチームの和を調和させることとのバランスって――
Oさんはびっくりしてしまったそうです。

えっ、えっ、えっ
今さっき君たち、質問ないってリアクションしたじゃないの!
その場で聞いてくれていいのに~!!
Oさんは困惑しながら私に語りました。

ちゃんとした大企業に就職できるくらい皆優秀な人材のはずなのに、面と向かって話ができない、チャットやメッセージではじめて伝えられるって、これから困ると思うんだよな~……
この極端な内向性は、コロナのせいなのかしら?

あ~
私もそういう経験ありますよ

Nozomiさんもあります?

内向的な人って面と向かっては全然しゃべらないのに、会ったその夜にすごい長文メール送ってきたりするの、あるあるだと思います。
しかし、それが新入社員全員っていうのは、ちょっと極端ですね……

そうなんですよ~
ビジネスシーンではこの対応、ちょっとまずいです
先方に違和感を与えかねません……
この話を聞いて、私は思いました。
「トーク力と文章力のバランスって、大切だな」と。
「トーク力」と「文章力」バランスこそが大切

コミュニケーション能力を陰陽で分けるなら、こうなります。
- 陽:トーク力
- 陰:文章力
この陰陽の使い分けの例でいうと、「通訳者と翻訳家」が挙げられます。どちらも同じ「言語を別の言語に転換する」という仕事です。
しかし、この二つの職業、就業するタイプが真逆です。通訳は外向的で初対面の人にも物怖じしない社交的なタイプが多いのに対し、翻訳家は一日中家にこもって誰にも会わなくても平気な内向的なタイプの人が多い印象。「通訳も翻訳もどちらもやります」という方は少数派。
本質的には、やってることは同じです。「ある言語を別の言語に転換する」←これ。
でも、使うコミュニケーション能力の質が真逆なんです。通訳は「トーク力」が必要で、翻訳家は「文章力」が必要とされます。
コミュニケーション能力にも陰と陽があるんですね。
そして、上のOさんが経験した社員研修では「陰のコミュニケーション能力(文章力)は優れているのに、陽のコミュニケーション能力(トーク力)が弱い」という現象が見られたわけです。
Oさんが感じていらっしゃったように、陰陽(文章力/トーク力)が、どちらかに偏りすぎていると、ちょっとまずい。なぜなら「この人って、信頼できない人なのかな?」という印象、違和感を与えてしまいかねないからです。
文章力>>>トーク力の人(内向的)
なぜ文章力は優れているのにトーク力がないとまずいのでしょう?
「文章が書けて必要事項を伝えられればそれでいいではないか」と思いませんか?
ですが、文章力だけが発達してるって、まずいんです。
もちろん小説家や翻訳家など文章のプロフェッショナル(専門家)として生きていくならトーク力がなくても文章力があればOKです。
しかし、企業の新人社員のように一般的なビジネスシーンでこれはマイナスの資質と言わざるを得ません。いくら美しい文章が書けても素晴らしい感動的な文章が書けても、明らかにマイナスです。
Oさんを見てください。
長文にドン引きしてます。
「質問はありますか?」と聞いた時にノーリアクションでシーンとしてたのに、後から熱い長文が送られてきて、ドン引きしてるんです。
性格が悪いとか礼儀がなってないとか、そういう理由からドン引きしてるのではありません。落差に引いているのです。
「話してる時は大人しそうに見えたのに、文章では超絶饒舌」←この落差がありすぎると、受け止める側も辛いのです。真冬から一気に真夏になったら、困るでしょう。
ですから、「トーク力0:文章力100」って状態のは、ちょっとまずいんです。文章力が多少拙くても「トーク力40:文章力60」のほうが断然好感度は上がります。なぜなら落差が少ないので、安心できるんです。信頼できます。
例えば、いきなりチャットで長文を送りつける前に、対面で

すいません
質問したいのですが
ちょっとまだ頭の中で整理がつきません
あとからチャットで送ってもいいでしょうか?
こう「一言」あったら、Oさんはドン引きしなかったでしょう。むしろ「わかりました!待ってますね!」と笑顔で受け止め、相手に対しても好感をもったでしょう。長文を送られても、驚かなかったでしょう。
……実は、これ、私が会社員時代にやった失敗でして。
私の場合は文章ではなく口頭だったんですが、「言葉が足りない」ということに関して上司から似たような注意を受けました。

ちゃんと一言断っておきなさい!
一言あるとないとでは
挨拶があるとないとでは
印象は大違いなんですよ!
なんでも「結論が出てからちゃんと説明しよう」と思っていた私は、考え込んで黙って、なかなか上司に報告しませんでした。しかし、上司が求めていたのは逐一の報告(ホウレンソウ!)だったんです。
私にとって「つまらないこと(言わなくてもいいこと)」が上司にとっては「大切な一言」だったのです。小さな報告があれば、上司もその場にあったサポートができる。だからこそ余計に「一言」をかけなさいというわけなんですね。
つまり、長文で「一気に自分が言いたいことを伝える」ではなく、小出しに伝えたほうが、相手に信頼してもらいやすいのです。相手側としても情報処理の負担が減ります。
文章力>>>トーク力の人は、完璧主義な人が多いです。
なぜなら、文章は時間をかけてじっくり練ることで完璧を目指せるからです。
しかし、その「きちんとした文章をつくるクセ」がつきすぎると、残念ながらトーク力が落ちてしまいます。トーク力に必要なのは熟考力ではなく瞬発力。その場その場でパッパッパと「思考を瞬時に言語化する力」が大切なんですね。
私は以前、他の記事でこう書きました。
もう一つステップアップ、「コミュニケーションのスピード」を意識すると更にグレードアップします!
つまり「リアクションのスピード」を早めるのです。
リアクションは大きく、そして早く!
これは書面でのコミュニケーション(LINEなどのメッセージツール)よりも、対面での会話で大切になってくるスキルです。書面で伝えることを得意とする人は、どうしても文章を洗練させようとします。つまり、推敲してちゃんと誤字脱字がない状態で時間をかけて、真意を正確に相手に伝えようとする方が多いのです。
これももちろん大切なことですが、それに慣れてしまうとスピード感が失われてしまいます。つまり、「メールなどで文章を書いて伝えるのは得意だけど、面と向かって話すとなかなか言葉が出てこない」状態に陥りがちです。
ずっと私のことを見て応援してるガイドからのメッセージ
「文章では伝えられるけれども口頭では難しい」
これもある程度はOKなんですけれども、Oさんの件のように「対面では発言しないのに文章は超長文」になってしまうと、ちょっとまずいです。
「この人、何なの? 面と向かって言えばいいのに」って悪印象につながってしまいます。つまり、会ったときに口で伝えないのに後から文章で伝えるのは「後出しジャンケンしてくる卑怯な人」という誤解にすらつながってしまう場合があるのですね。
長文が書けるほどの文章力があるのは素晴らしいことですが、トーク力も大切です!
文章を書くのが得意な方は、ぜひトーク力も磨いてみてください。そうすれば鬼に金棒です!
トーク力<<<文章力の人(外向的)
そして、トークは抜群なんだけど、文章は苦手な人。
これも、これで、実は問題です。
なんで問題かというと、「会って話してメッチャクチャ盛り上がった後に、すんごいそっけない一行LINE(最悪既読無視)」
これ↑やりがちだからです。
やってる側は「わかった~」と心の中で返事して、「別にわざわざ返信するまでもないよな」と思っています。だから返信しなかったり、してもそっけなかったりします。悪気はありません。
しかし、やられた側は、こう感じます。

えっ
テンション低っ……
私、実は嫌われてる?
いや~これも、実は、私、このタイプでして……。
私、確かにブログで長文、書きますよ。でも、それって「連絡事項があるから」書けるんです。つまり”上”から「これを書きなさい」って指令があるから降ろして書けるだけで、降ろすものがなかったら何にも書けません。
だから、たまにブログがまったく更新されない時期があるでしょう。あの時は降りてきてない時です。降りてこないと書けません。素だと、書けません。実際に小中学校の頃の作文の成績、悪かったです。大学受験の小論文も赤ペンだらけでした。
文章化って、苦手なんですよね。何にもない時に「今日はカレーを食べたよ!」とか書くの、すごい苦手。ペットの写真撮ってSNSにUPするとか、苦手。「そんなのする必要なくない?」って思ってしまいます。
ですが、みなさんお分かりの通り、この「何気ないことを文章にしてちゃんと伝える力」って大切ですよね。「今日は雨だったね~」とか伝えるの、大切ですよね。ビジネスシーンでは必須ではないけれど、プライベートでは大事ですよね。
私、これが、できなくて。
直接会ってトークするのは、メチャクチャ得意なんですけど。
だから、もう20代のころから彼氏に怒られてきました。
「なんでメールしないの」
「なんで返事しないの」
「俺と連絡とるの迷惑?」
こう言われてきました!!
なのに、
「元気~?生理終わったからセックスすっベー!」
とか、そういう連絡は、一行ベラッと送ってくるわけですよ!
俺の身体が目当てかよ!!!!涙
――って話になりますよね……。デリカシーなさすぎるにもほどがあります。本当に20代の頃の私に説教したい気分です。慎みのなさにもほどがある。いいかげんにしなさい。
なぜそんなデリカシーのないことだけは言えるかというと、それは「連絡事項」だからです。連絡事項があれば連絡できる。けれども連絡しなくてもいいこと(その日食べたもの、天気の話、映画の話など)は「しなくてもいい」と思ってしまうのですね。
これが、往々にして(主にプライベートの人間関係構築において)マイナスに働いてしまいます……。
トーク力のある人間こそ、文章で伝えるスローなコミュニケーションも大切にする。この心がけで、プライベートのごく親しい人との関係がより円滑に回るようになる。そういう面って、あると思います。
トーク力+文章力のハイブリッドが最強!

トーク力も文章力もあったらいいってのはわかりましたけれども
そんなのは難しいのでは……
と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、トーク力も文章力も「二刀流」で大谷翔平選手のように活躍している人も、実際にいるんです!
例えば、前に上げた通訳者は「トークのプロフェッショナル」です。口頭で伝えることが上手い人が多いので、トーク力のある方が多いです。
しかし、そんな通訳者から小説家・エッセイストもやっている方がいらっしゃいます。故・米原万里さんや田丸公美子さんです。
米原さんはロシア語通訳、田丸さんはイタリア語通訳者です。通訳の道から文筆の道に進まれました。もちろん言語センスは抜群ですので、文章も面白いです!
トーク力のある方が文章力を磨くとこうなるという、素敵なお手本ですね。
あと、最近ご紹介しているMBさん。
たくさんの動画でわかりやすいトークを繰り広げております。そして、毎週メルマガで5万文字(!)も書いている人でもあります。
こういった上で挙げた「二刀流」な方々も、基本的には「トークのほうが得意」とか「文章のほうが得意」と、どちらかが得意で苦手というのはあることでしょう。
しかし、どちらもバランスよく発達させることでコミュニケーションの陰陽を整えることができます。
自分のコミュニケーションのバランスを整えてみてください。気を付けるだけで、人に与える印象がぐっとUPします!