自分の不自然な感情や感覚、憎しみや苦悩、未解決の悲嘆、海のようにため込んだ涙を、表に出すことさえできれば、本来の自分に戻ることができます。
「死ぬ瞬間」と死後の生 P175~176
マンガ「或るアホウの一生」の最終回に、こんなシーンがあります。
【画像】或るアホウの一生 4巻 最終話 春の形見
これを見て、わたしは
「この人、一人になってもすぐは泣けないかもしれないなぁ」
と思いました。
近しい人ほど、なかなか泣けないのを見てきたからです。
悲しみの量が多い人が、泣かない
昔、介護の仕事をしていた時のこと。
病気が良くなくて入院した利用者さんが、いよいよ危ないという情報が入ってきました。
なので、わたしは空いてる後輩をつかまえて夜勤明けでボケェーとしつつお見舞いに行くことにしました。
後輩とファミレスでふっつーに朝食をとった後、大きな病院に行きました。
受付に行くと「もう亡くなられました。まだ病室におられますよ」とあっさり言われました。
後輩と私は拍子抜けで、「と、とりあえず会いに行くか……」と病室に移動しました。
病室に行っても、別にフツーに寝てるだけにも見えて、わたしと後輩はイマイチ現実感の無いままぽかんとしていました。
臨終を看取った利用者担当の同僚が「まだあったかいぞ。握ってやれ」と亡くなった方の腕を握って、手を私のほうに差し出しました。
かさかさした手に触れた瞬間、わたしはドワーーーーーっと涙腺が決壊しました。
「が、がんばった、がんばったんだねえ、がんばったんだねええええー」と手の甲を何度もさすりながら、みっともないくらいボタボタボタボタ涙をシーツにこぼしまくりました。
ビックリしたのが周りの人です。
三つ子の魂百まで。昔から鋼メンタルで「何があろうと動揺しない心臓に毛の生えた女」と見られていたわたしが、鼻水と涙で顔をグチャグチャにして嗚咽にまみれているのです。
同僚は気の毒にも、わたしの泣き崩れに度肝を抜かれて動揺してしまいました。
「せ、先輩っ!?えっ、ちょっ、大丈夫?」
「お、おう、ほ、ほら、じいさん、Nozomiが来たぞ~来たぞ~って、な、オイ、ハハ」
オタオタして要領の得ないことを言う同僚とは裏腹に、親族の方は非常に落ち着いていました。
「大丈夫よ、そんなに泣かないで。もうね、あっちにいって、全部自由になっているのよ」
「ウッ、ウウーッ」
「何十年も車椅子で自分の足で歩けなかったんだから。でもね、もうあっちに行ったから歩けるの。これで良かったのよ。兄さんのことだからね、きっと今頃は喜んで馬に乗ってるわ」※競馬の好きな人だった
「ウッ、ウウーッ」
結局私はポケットティッシュ1個丸々使っても足りないくらい鼻水を出しまくり汚く泣きまくりました。
親族の人は、泣いていませんでした。
何だか軽々しくビエビエ泣いている自分が馬鹿みたいで恥ずかしかったのですが、どうしようもなく決壊してしまって、止まりませんでした。悲しみや喪失感は、親族の方のほうが、深かったはずなのに。
言葉にすることすら難しい
若いころお付き合いしていた男性は言いました。
「オヤジは心臓発作で死んだ」
それから二年後、彼は言いました。
「実は、心臓発作じゃなくて、自殺だったんだ」
私はびっくりしました。
二年間、別に彼の言葉が疑われるような要素は全くなくて、私は彼のいったことをアホウなまでに丸々鵜呑みにして信じていたからです。「若いのに、そんなことあるのね」と。
でも、実は自殺だったと。
彼のお父さんはいわゆる「鉄道マン」で、国鉄に勤務していました。そして国鉄は分割民営化して皆様ご存知JRになりました。その際にお父さんはリストラされてしまいました。それからというもの、起業して自分で会社を経営していたそうです。
だけど、その後のバブル崩壊。何年かはがんばっていた事業も立ち行かなくなって、借金がかさみました。そして「保険金で返してくれ」と自殺してしまったそうなのです。ハァ~…90年代あるある~……。
そして彼は法律家の道をあきらめ大学を中退し、自衛隊に入りました。元々格闘技をやっていたので、適性は十分でした。そうです、彼もやっぱり私の好みど真ん中の男だったわけです。どこまでもブレない体育会系筋肉好き。筋肉は正義。
真相に加えて驚いたのが、そのことを私に告げた彼が泣いていたことでした。
彼の涙を見たのは、後にも先にもこの一回こっきりでした。
彼は泣くのに二年もかかったのです。二年も。いや、泣くどころか、事実を言葉にすらできなかったのです。
わたしは近しい人ほど、泣けないケースを見てきました。
だから、マンガですけど、或るアホウの一生の茜さん(紫紅母)も、多分泣けないんじゃないかなぁ~と想像してしまいます。
そういえば同じトウテムポール先生の東京心中にも泣けない人おったわ。
【画像】ブラックドッグノービスケッツ-東京心中・7
ちなみに、この泣けない少年が自分の感情とつながり直すきっかけが黒澤の羅生門っていうね~もうね~渋すぎるわ~ポール先生シビレるわ~。

あまりにも喪失が大きいと、泣くのは却って難しいのかもしれない。
そう思います。
泣けた方が感情の浄化になっていいんだけどねえ……。
というわけで、あなたも或るアホウの一生を読んで泣いて心を洗い流そうぜ☆彡(ダイマ)




