「オトメン」で有名な菅野文さんの新作 薔薇王の葬列。
シェイクスピアの歴史劇「ヘンリー6世」「リチャード3世」を原案として、中世イギリスの薔薇戦争(解説 – Wikipedia)を描く漫画です。
既刊は現時点で1巻だけですが、これがすごく面白い。
特に私が心打たれたのは、イングランド王・ヘンリー6世の心の美しさ、愛あふれる態度。
彼の唇がつむぐ言葉は、常に神とともにある。
争いを避けるためなら、彼は自分が手にしている王の座を捨てることすら厭わないのです!
そして、そういう人間こそ、周囲にとっては迷惑である。
彼の心が愛にあふれていればいるほど、その事実が無情にもあぶりだされているのです。
曽野綾子さんの善人は、なぜまわりの人を不幸にするのか―救心録に書かれていることとも共通します。
悪気なく善意で行うことこそ、時に残酷なほど人の迷惑になるのです。
天使のように心の美しい人間は、現実では無能で役立たず、むしろ足手まといになる可能性があります。
優しくて無能な夫のおかげで、女だてらに兵を率いなくてはならなかったマーガレット妃の苦労たるや、想像を絶します。(なんてったって15世紀の話ですから!)
ナポレオンは言いました。
「真に恐れるべきは有能な敵ではなく 無能な味方である」と。
オーラソーマの創始者、ヴィッキー・ウォールの父も言っています。
「神聖すぎてはならない。神聖すぎるとこの世界では使いものにならなくなる」
この「薔薇王の葬列」での、ヘンリー6世の言動は実に癒されます。
まさに「天使」です。
でも、癒し系の天使ちゃんが地上で生きるのは酷なこと。実際にヘンリー6世は、戦乱の世の王としては全くの役立たずです。
今の世も、すでに乱世といってもいいでしょう。
混乱の世を、力強く生き抜かねばなりません。
私たちが「薔薇王の葬列」のヘンリー6世から得られる教訓は、実に深いものがあります。
「癒し系の天使のような人間は、人様の足を引っ張るだけだ」
乱れた世で善や愛を実行しようと思うなら、まず要求されるのは心の美しさではなく、強さ。
別に天使のような人間が悪いというわけではありません。
そうではなくて、イノセントにただただ美しい存在であっては、愛を広める前に羽をもがれてしまうということをお伝えしたいのです。
強くあってください。
癒し系天使など、現実には何の役にもたたぬのです。